2005年12月25日 (日)

月光に照らされたバスの中

詩的で幻想的な絵本

「月夜のバス」

杉みき子 作 黒井 健 絵

2002年出版 24ページ 偕成社

月夜の海岸に走る国道。
少年が一人歩いている。
国道は海に突き出た黒々とした岬の先から、ヘッドライトを次々に生み出している。
それがベルトになって、海岸の輪郭をふちどっている。
昼間はいる人影も、夜には見当たらない。
横断歩道での信号待ち。
前をトラックや乗用車、オートバイ、ダンプカーが通り過ぎる。
見慣れた路線バスが来た。
いつもと様子が違っている。
窓いっぱいの明かりは月光の差し込む海中のように青みがかっている。
少年はバスの窓をのぞきこんで、息をのんだ。
何を見たのか?
このバス、いつもの停留場に止まるんですけど、乗降客はいつもどおり。
少年に月光がいたずらした?
とても詩的な絵本です。

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2005年11月12日 (土)

1000人の心が一つに

チェロの音が聞こえてきそうな絵本

「1000の風 1000のチェロ」

いせひでこ作 2000年11月出版 32ページ 偕成社

一人の少年と少女のチェロを通じた出会い。
なぜか二人の気持ちがシンクロするのは、可愛がっていたペットとの悲しい別れがあったからかもしれません。
小さな二人の調べは、次第に大きな流れに合流していきます。
阪神淡路大震災復興支援「1000人のチェロ・コンサート」。
一緒に参加したおじいさんは、
町も家も家族も友達も、60年弾き続けたチェロもなくなって、
なくなった仲間が残したチェロを弾いていました。
その音色は二人の調べと共鳴していきます。1
000人が集まったとき、
1000の風が1000のチェロによって一つの心になり、祈りになります。
実際にコンサートに参加してチェロを弾き、
1000人の人たちをスケッチした作家の、壮大な音楽が聞こえてきそうな作品です。

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2005年11月 9日 (水)

こんなパンがあったら食べてみたい

パンもカラスもみんな個性的に描かれている絵本

「からすのパンやさん」

加古里子 作

1973年 1刷  2003年 270刷 32ページ 偕成社

いずみがもりで暮らす、からすのパンやさんに4羽の赤ちゃんが生まれました。
お父さんとお母さんは子どもたちの世話に大忙し。
お店はちらかったまま、黒こげパンや半焼きパンもできてしまう。
だからお客さんもいなくなり、どんどん貧乏に。
ある日大きくなった4羽の子どもたちが、そんなパンをおやつに食べていました。
それが友達たちの間で大好評。
みんなの意見を聞いて作るパンの種類もどんどん増える。森は大騒ぎになって行きます。
サボテンパンや雷パン、テレビパンってどんなパン?
絵を見てください。もっともっとありますよ。とても楽しいページです。
もっと見てほしいのは、たくさん登場するカラス。全部表情が違っています! 
生きた個々の描写と全体への総合化が大切、と作者はあとがきで述べています。
なんと270刷。

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2005年10月 8日 (土)

波がボールを投げてくる

スケールの大きな絵本

「海をかっとばせ」

山下明生 文  杉浦範茂 絵

2000年7月出版  31ページ 偕成社

今年から野球チームに入ったワタル。でもまだベンチ。
夏までには何とか試合に出たい。そこで秘密練習開始。
毎朝、海までランニングして素振り100回。
誰もいない海岸で練習していると、大きな波がワタルを襲います。
気がつくと一人の少年が立っています。
少年はワタルの話を聞くと、海に入って、波の向こうからボールを投げてきます。
ワタルは夢中で打ち返すうちに、観客の声援まで聞こえてきます。
逆転ホームランか・・・。
山下さんの作品は海を舞台にしたものが多い。
この作品も力強く、スケールが大きい。
杉浦さんの絵も迫力があって、波音が聞こえてきそうです。

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2005年9月19日 (月)

幻想的な盆踊りの世界

美しく懐かしい絵本

「きつねのぼんおどり」

山下明生 文 宇野亜喜良 絵

2000年6月出版 32ページ 解放出版社

盆の三日目。
「ぼく」は河口でつりをしている。お盆には、なくなったものの魂がこの世に戻ってくるという。
そのせいか、魚はちっとも釣れない。
後ろから声がする。お盆だから魚も盆踊りに行ったんだろう、と。振り返ると誰もいない。
対岸の向こうには黒い森が見える。かつて、きつねが住み着いた森。行ってはいけない森。
そこに雨が降ってくる。岸の小船に飛び移ると、雨がやみ、船頭がのってきて、舟は動き出す。
行き先は? 幻想的な盆踊りの世界。
きつねと人の影が入り混じって、歌の中からはかない物語が浮かび上がる。
きつねうどんの由来とも言われる信太山(大阪府和泉市)。
その盆踊りを題材に作者がアレンジして、美しく懐かしい作品になっています。

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2005年8月 6日 (土)

テケレッツのパア!

落語の絵本

「しにがみさん」

野村たかあき 作 2004年出版 32ページ 教育画劇

おなじみ落語の「死神」、絵本版です。
金に困って死のうとした男が死神に助けられる。死神から医者をやれと言われる。
病人の枕元に死神が見えれば助からないが、足元ならじゅ文を唱えれば助かる。
そのじゅ文は「アジャラカ・モクレン・キュウライス・テケレッツのパア」、そして手を二回パンパンと打つ。
男はだんだん金持ちに。ところが贅沢ばかりして、また金がなくなってくる。さて、起死回生の策は? 
6歳の子どもに読み聞かせたらじゅ文が気に入ってしまい、すぐに覚えて、やたら「テケレッツのパア」って言っては手をパンパンと叩くのです。まるで我が家が落語みたいになってしまって・・・。
この「死神」、明治中期、イタリア歌劇「靴直しのクリスピノ」の翻案だそうですから驚き。

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2005年5月26日 (木)

妖姫アメフラシとの戦い

わくわくどきどきのシリーズ絵本

「くろずみ小太郎旅日記」 その3 妖鬼アメフラシ姫の巻

飯野和好 文、絵 2000年8月初版 24ページ クレヨンハウス

小太郎は生まれて初めて海を見ます。その広さに感動していると、紫色の雨が降ってきます。砂浜には美しい娘がこちらを見つめています。でも、なにやら怪しい妖気が漂ってきて、小太郎は後ろに飛びのきます。娘は笑いながら大きなアメフラシに姿を変えるのです。「むーっ 妖しいやつ」 その姿、とにかく妖しすぎるくらい怪しい。アメフラシってご存知でしょうか? ウミウシのなかまの軟体動物です。30cmくらいのナメクジみたいなやつ。小太郎がすばやく七輪になって真っ赤な炭を飛ばしても、妖姫アメフラシは気持ちの悪い紫の汁で消してしまいます。小太郎の体がしびれてきました。小太郎危うし! 今回、小太郎はどうやって危機を脱出したのでしょうか? 20歳のころ、作者が実際にアメフラシと出会ったときの妖しい感動がベースになっているそうです。シリーズ3作目。

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2005年5月22日 (日)

いつまでもビクビクしていられない

勇気ある生き方を教えてくれる絵本

「とべバッタ」

田島征三 文、絵 1988年7月初版 36ページ 偕成社 

バッタに襲いかかるカエル、クモ、ヘビ、トリ、カマキリたちが、まるでウルトラマンに出てくる怪獣たちのようです。そんな圧倒されてしまう迫力ある絵が展開していきます。バッタはいつもびくびく暮らしていました。ある日、そんなおびえながら生きていくのが嫌になったのです。そこで決意しました。岩の上でゆうゆうと日向ぼっこを始めたのです。案の定、「怪獣」たちが襲いかかって来ました。バッタはそんなことは百も承知です。襲われる寸前、死にものぐるいで飛んだのです。さあ、何が起こったのでしょうか。まさか! と思うほどバッタは格好いいのです。ウルトラマンになったみたい! でも奇跡は一瞬です。後は自分の力で何とかしなくてはいけません。格好が悪くたって、馬鹿にされたって、そんなこと気にしていられません。自分の足でしっかっかり・・・、じゃなく四枚の羽でしっかりと、でした。ぜひ子どもに読んであげたい、とても勇気の出る絵本です。

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